大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

木曽福島簡易裁判所 昭和36年(ハ)8号 判決

昭和三六年(ハ)第八号事件

原告 古畑勇 外一一名

被告 国

訴訟代理人 家弓吉己 外二名

昭和三七年(ハ)第八号事件

原告 古畑勇 外一八名

被告 国

訴訟代理人 家弓吉己 外二名

主文

原告等の本件各請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、昭和三六年(ハ)第八号事件につき、「被告は原告等に対し金七万八千六百九十六円およびこれに対する昭和三十五年一月一日以降右完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、また昭和三七年(ハ)第八号事件につき、「被告は原告等に対し金三万二千十六円およびこれに対する昭和三十五年十月十三日以降その完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、昭和三六年(ハ)第八号事件の請求原因として、

一、原告等一二名はいずれも国有林野事業定期作業として林野庁長野営林局奈良井営林署に勤務するものである。

二、原告中斉、同古畑福一、同長巾、同折橋、同巾崎、同沢口の六名は昭和三四年四月以降同年九月迄の間右奈良井営林署白川号、第三号、第五号、第七号各伐区の立木伐採の業務に従事し、第一号伐区については二、〇二〇・二五石以上、第三号伐区については一、四一一・八七石以上、第五号伐区については二、五五三・三〇石、第七号伐区については二、三四二・四七石以上計八、三二七・八九石以上の立木を伐採した(但し右第一〇林班のうち第一号、第三号および第七号の各伐区についてはいずれもその主張の伐採量は貯木場検知石数の限度に止めたが、この場合通常は三%乃至五%の目減りがあると考えられる(これを確定することは困難である)ので、真実の伐採量は右の貯木場検知石数を超過するものであることが明らかであり、また第五号伐区については伐採現場検知石数が貯木場のそれを超える場合であるので、伐採現場検知石数によつた)。

三、原告古畑勇、同児野、同香山、同畔出、同古畑保、同上条の六名は、昭和三四年四月以降同年一一月迄の間右奈良井営林署白川伐採事業所戸沢連絡所第一作業班に所属し、戸沢事業地の第五七林班第二、第三、第四、第六、第一三各伐区の立木伐採の業務に従事し、第二伐区については一、七二三・一八石、第三伐区については二、九六九・〇六石以上、第四伐区については二、四一七・〇二石以上、第六伐区については三、三〇六・九五石以上、第二二伐区については三、三八丁七石以上計一三、七九七・九一石以上の立木を伐採した(但し右第五七林班のうち第三、第四、第六および第一三の各伐区についてはいずれもその主張の伐採量は貯木場検知石数により、また第二伐区については前記二の場合と同じ事由により現場検知石数によつた)。

四、右のように原告等が伐採した前記木材の合計二二、一二五・八石以上の各木材はすべて奈良井貯木場に集積されたものであるが、前記奈良井営林署長は原告等が伐採した木材は、合計二一、二三一石余に過ぎないとして、原告等各人に対して、昭和三四年一二月一二日迄にその分の賃金の支払いをなしたのみで、真実に伐採した右の木材量と右奈良井営林署長の主張する木材量との差額たる白川事業地については五一三・九二石、戸沢事業地については六四八・二六石合計一、一六二・一八石の伐採木材に見合うべき賃金を支払わない。

五、然るところ原告等の右各木材伐採による賃金については、原告等と右奈良井営林署長との間における本件立木伐採作業に関する労働契約により所謂出来高払制がとられているが、右出来高払制における立木伐採業務に対して原告等の受取るべき賃金は、予め決められた単価を原告等が一定期間に現実に且真実に伐採した立木の石数に乗じた額を労働の対価として請求し得べき建前となつている(なお前記第一〇林班の各伐区中右の単価は第一号については七一円、第三号については七六円、第五号については七〇円、第七号については七五円と、また前記第五七林班の第二については七五円、第三については七〇円、第四については六七円、第六については七三円、第一三については六五円と決められた)。

六、そして原告等に支払うべき賃金の計算の基礎となる伐採量は伐採現場において検量されるべきものであるが、伐採現場における検量は原告等の伐採数量を確定するための手段方法でこそあれ、その検量の結果が原告等の真実の伐採量を規制したり又は限定したりするが如きことは許されないところで、伐採現場における検量に誤りがあれば、直ちにこれを改めるべきであるのに、右奈良井営林署長は右現場において検量をなすべき者に命じて真実の量目より過少の量目を検量せしめたものである。

七、貯木場における検量が伐採現場検量より減少することが正常であつて、伐採木材は運搬途上の消耗により当然減量となつて現れるもので、例えば昭和三五年度の白川事業地および戸沢事業地における実績表によると、その最終生産(貯木場検量)総数は二六、七七一・九三石であつて、この分についての現場検量(伐木造材)総数は二六、七九一・七四石であり、また昭和三三年度においては右の貯木場検量総数が一一、八三〇・五二石であつて、この分についての現場検量総数は一一、八七六・三八石であり、両者の検知結果はいずれも貯木場において減少しているのであつて、これらの事実は昭和三四年度のみにおいて極めて多量の而も殆どの伐区において不正検量が意識的に実施されたことを裏書きするものである。

八、従つて原告中斉、同古畑福一、同長巾、同折橋、同巾崎、同沢口の六名が前記白川事業地の第一〇林班の各伐区においてなした立木の伐採につき、現実に前記奈良井営林署長より右原告等が支払を受けた賃金の総額と前記出来高払制に基き請求し得べき権利のある賃金の総額との間に金三七、六二一円以上の差異があり、また原告古畑勇、同児野、同香山、同畔出、同古畑保、同上条の六名が前記戸沢事業地の第五七林班の各伐区においてなした立木伐採につき、同じく両者間に金四四、五〇九円以上の差異があり、これらの各金員につき被告に故意又は過失による債務不履行があることになるが、原告等の作業は共同作業形態を採用しており、原告各自別の伐採量は明らかでないのみならず、もともと共同作業として一体として算定している結果、被告に対する賃金債権は不可分債権と解せられるので、原告等は被告に対し右賃金の差額合計の範囲内の金額である金七八、六九六円および右未払賃金につき支払期日到来後であること明らかな昭和三五年一月一日以降完済に至る迄法定利息たる年五分の割合による金員の支払を求めるため本訴請求に及んだと述べ、伐採現場における検量と貯木場における検量との比較の結果、後者の検知石数が減少した場合に、被告よりその分について賃金返還の請求を受けた事例はないと附陳し、被告の主張に対し

(1)  被告の主張(三)の点につき、原告等に対する賃金については、毎月月始めより月末迄の間に伐採した分を現場検知した上、同検知石数に単価を乗じた金額が翌月一二日支払われていたが、右は支払方法に関する制度的方法であるに過ぎず、賃金に関する基本的契約は出来高払制であることに変りはなく、快して現場検知石数払制ではないのであつて、而も伐採された立木は直ちに搬出されずに長期間伐採現場に存置されるのが常識であるが、賃金は労働基準法により月一回以上定められた日に支払わなければならないことから、被告が出来高払制を採用している以上、自らそのために現場検知をなさざるを得ないものとなつているのであつて、原告等が現場検知により賃金の支払を受けるのは、同検知の結果が正しく労働の結果を集積し表示するものという信頼を基礎としており、同検知が真実に反するものであることを知つたとすれば、右のような支払方法を承諾する筈がないし、同検知の結果につき異議権を抛棄するが如きことはあり得べき筈がない。原告等が労働契約をなすにあたつても、統一された検知方法に基き通常の制度的要求を充足する正確な検知結果が得られるものと考えて単価を決めるものである。而して原告等が本訴において請求するところは、本件につき伐採現場検知に故意若しく過失があり、そのため不正確な結果が出て且つその不正確な過少石数で賃金が支払われていると判断されるので、これを訂正して正当な出来高に基く賃金を麦払えというものである。而して本件においては、原告等の伐採区域より貯木場へ搬入した木材については、原告等以外の者が伐採した木材が混入された形跡がなく、貯木場における検知の方が現場検知よりも検知に適しており、正確性の信頼度が高く、本件各現場検知担当者に信頼性が欠けていた等の具体的事由のほか、一般的に木材は現場より運搬するに際し損傷等により貯木場においては目減りこそすれ増加することは考えられないという山林業における経験則があることより、原告等の真実の伐採石数(出来高)は貯木場検知石数よりも多かつたと考えられることもまた経験則上当然である。

(2)  被告の主張(四)の点につき、貯木場における検知の結果が減少すること自体は当然で、山の地形により伐採木材が発見し難く、運び出されるにつき残されることもあるし、転がり落すことによつて破損することもある上、運搬手段の多様巨離によつて当然損耗するからであるが、右のような当然の目減り以上に貯木場において減少したという実例はない。原告等において仮に被告の錯誤等により真実の労働の対価を越えて金員を受領したことがあつたとすれば、これを返還するに何等異存はない。

(3)  検知手伝につき、検知立会制度はかつて存在したが、本件現場検知には原告等の立会を拒んでこれを認めず、強いて立会をするならば、欠勤扱いとするとし、検知手伝をする場合にのみ日給を支払つていたものであり、また検知の実態は極めて大量の材を短時間に行うため、手伝者は計測手の後を追つて作業することが精一杯であつて、到底立会権の行使は満足に行い得なかつたものである。

と述べ、昭和三七年(ハ)第八号事件の請求原因として、

一、原告等一九名は昭和三五年四月以降同年一二月迄の間いずれも国有林野事業定期作業員として林野庁長野営林局奈良井営林署白川伐採事業所戸沢連絡所に勤務していたものであり、原告古畑勇、同児野、同香山、同畔出恒男、同上条、同沢口の六名はその第一作業班に所属する造材手であり、その余の原告等一三名は第二作業班に所属する運材手であつた。

二、右第二作業班所属の原告等一三名は同年四月一七日より同月三〇日迄の間第五八林班「は」伐区人工林においてカラ松立木の手切り作業に従事したが、右作業についての賃金は伐採立木一石当り金一一〇円とする出来高払制労働契約に基ずくものであつた。

三、右第一作業班所属の原告等六名は同年七月八日より同年九月一二日迄の間右第五八林班「は」伐区においてカラ松立木の伐木造材に従事したが、右作業についての賃金は同じく出来高払制で、一石当り金八六円であつた。

四、而して右第一、第二両作業班により伐採された木材は伐採現場において検知されたが、その出来高石数は第二作業班については一、三六六・九六石、第一作業班については三、四七〇四一石合計四、八三七・三七石であるとされ、原告等は右出来高に見合うべき賃金の支払を受けたのであるが、これらの伐採木材は伐採現場より架線およびトラツク便にて奈良井貯木場に運搬され、同貯木場においては搬入と同時に貯木場(土場)検知をなしたのであるが、右貯木場における検量の結果、前記第五八林班「は」伐区から搬入されたカラ松材の総石数は合計五、二〇九・六六石であつた。

五、右第五八林班「は」伐区の立木は原告等以外の者が伐採したことがなく、伐採材木の運搬途中において同伐区以外の伐区若くは他の山林において伐採された材木が混入するが如きことは全くなかつたから、貯木場に集荷された同伐区の木材はすべて原告等の出来高払制のもとに伐採されたものであつて、伐採木材が貯木場に搬入される場合、その石数は目減りこそすれ増加するが如きことはあり得ない。

六、ところが貯木場における検量の結果が伐採現場における検量よりも増えている結果が明らかになつたが、現場検量と貯木場検量の実体を地形伐採木材の状態、検知者の行動の自由の各点から判断すると、貯木場における検量の方が正確に近いことが明らかであり、この事は現実に貯木場における検知石数が林野庁の経済活動の基礎となつていることからも肯定し得る。

七、前記四に記載のとおり右第五八林班「は」伐区に、おける伐採現場検量とその貯木場検量結果については、総計において三七二・二九石の食い違いが生じたものであるが、その石数は前記現場検知石数の約八%に該るところ、原告等の真実の伐採量につき右二つの検量結果を判断するときは、貯木場検知量をもつてより正しいとなすにつき合理的根拠があるので、原告等が真実伐採した造材出来高石数の総計は特段の事情のない限り五、二〇九・六六石若くはそれ以上であることが明らかである。

八、然るところ原告等は未だ右三七二・二九石について賃金の支払を受けていないので、これに見合うべき賃金の支払を請求し得べきことが明らかであるから、前記第二作業班に所属の原告等一三名はその出来高単価二〇円の範囲内であること明らかな金八六円の限度において、前記第一作業班所属の原告等六名はその出来高単価金八六円をもつて賃金計算の基礎とし、不可分債権として被告に対し右三七二・二九石にこれを乗じた金三二、〇一六円を請求し、併せて右賃金につき最終の賃金支払期たること明らかな昭和三五年一〇月一二日の翌日たる同月一三日以降完済に至る迄法定利息たる年五分の割合による金員の支払を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、立証として(中略)

被告指定代理人は、昭和三六年(ハ)第八号および昭和三七年(ハ)第八号事件につきいずれも、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、昭和三六年(ハ)第八号事件の答弁として、

(一)  原告等主張の請求原因一は認める。請求原因二はその主張の原告中斉等六名が前記白川伐採事業所第一作業班に所属し、白川事業地の第一〇林班第一号、第三号、第五号、第七号各伐区の立木伐採の業務に従事したことは認めるが、その余の事実は否認する。請求原因三はその主張の原告古細勇等六名が前記白川伐採事業所戸沢連絡所第一作業班に所属し、戸沢事業地の第五七林班第二、第三、第四、第六、第一三各伐区の立木伐採業務に従事したことは認めるが、その余の事実は否認する。請求原因四は原告等が右のように伐採した各木材がすべて奈良井貯木場に集積されたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告等主張の日迄に原告等に対し支払つた出来高払による賃金の計算の基礎となる伐採石数は合計二〇、九七四・四三石である。請求原因五は出来高払制であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。請求原因六は原告等に支払うべき賃金の計算の基礎となる伐採量が伐採現場において検量されるべきものであることは認めるが、その余の主張は否認する。請求原因七は昭和三五年度、昭和三三年度の各検知石数がその主張のような数量であることは認めるが、その余の事実は不知、請求原因八は争う。本件において貯木場における検知石数が伐採現場における検知石数よりも増加した具体的理由は明らかでない。

(二)  原告等が伐採したと主張する石数は、奈良井貯木場に集積された最終生産石数を基準としたもので、この中には原告等の日給分による伐採石数や、前年度からの繰越石数その他の伐採石数も含まれているので、奈良井貯木場において検知された最終生産石数によつては、果して原告等主張の期間その主張の場所で原告等が出来高払により伐採した石数が幾らであるかは判別し難い。原告等の伐採現場における出来高払による伐採石数は現場において原告等立会の上、検知(検量)されているので明らかであり、これによると原告等主張の期間その主張の各伐区における原告等の出来高払による伐採石数は、白川事業地において計七、八一三・九七石、戸沢事業勉において計一三、一六〇・四六石、合計三〇、九七四・四三石であつて、その詳細は別表一および二に記載のとおりである。

(三)  伐採現場における被告の検知については、原告等主張のような不正の検知をなさしめた事実はなく、被告は既に伐採現場における検知石数に基き賃金を支払済みであるから、原告等に対してはなんら未払賃金はない。すなわち、出来高払制の伐木造材手に支払うべき賃金の計算の基礎となる伐採量は伐採現場において検知されるべきものであるが、原告等伐木造材手に支払うべき出来高払の賃金は、貯木場における検知石数の増減如何に拘らず、伐採現場において検知された石数に基いて支払われていることは、全国の国有林において過去何十年来の慣行として行われてきたところであつて、いわゆる慣習法的性格を有するものであり、また原告等自身もこのことを十分に了知し、被告との間に各伐区毎に造材賃金の単価を取極めた上で、伐採作業に従事しているものであつて、原告等の出来高払の賃金が伐採現場における検知石数に基き支払われるべきことが、原告等と被告との間の労働契約の内容となつているのであるから、たとえ貯木場における検知石数が増加したとしても、被告は原告等に対し、貯木場における検知石数に基き賃金を支払うべき義務はない。

(四)  伐採場における検知は、計測手と野帳マンが利害関係のある原告等造材手二名の立合の上で計測器により検知して知つているものであるから、原告等主張のような過少に検知させるが如き不正の検知が行われる余地は全くない。しかし伐採現場における検知石数と貯木場における検知石数とに多少の増減が生ずることのあるのは、争わないが、これは立地条件の異る場所での検知の位置差、すなわち伐採現場における検知は貯木場における検知に比し急傾斜地で雑草や雑木等の障害物の多い作業困難な場所で行われること、と計測手の計測技術上の誤差或は運材作業の過程における損耗若くは他からの混入等に基因するものと考えられ、止むを得ないこととされているのである。従つて原告等造材手に支払うべき出来高払の賃金は右のような増減如何に拘らず、伐採現場において検知された石数に基いて支払われるべきことになつているのであつて、仮に貯木場における検知石数が減少したからといつて、これを理由に過払分の賃金の返還を求めるようなことはしないし、また逆に増加したからといつて、不足分の賃金を追給するようなことは行われていない。また仮に伐採現場における検量に誤りがあるとしても、原告等が立会つているので、その際原告等の請求権は放棄されたものである。

(五)  仮に貯木場において検知された最終生産石数と伐採現場において検知された石数との差額分が全部原告等の出来高払により伐採した石数につき増加したものであるとしても、貯木場における検知石数に基き出来高払の賃金を支払うべき旨の法令上の根拠や協約及び就業規則もなければ、また原告等との間の契約もないので、被告は本件伐採木につき原告等に対しなんら未払賃金の支払義務はなく、本訴請求は失当として棄却さるべきである。

と述べ、昭和三七年(ハ)第八号事件の答弁として、

(一)  原告等主張の請求原因一乃至四はいずれも認める。但し貯木場に搬入された木材はカラ松だけでなく、ひのき、もみその他広葉樹も含まれている。請求原因五乃至七は否認する。請求原因八は争う。

(二)  原告等の出来高払の賃金が、伐採現場における検知石数に基き支払われるべきことが原告等と被告との間の労働契約の内容となつているのであるから、たとえ、貯木場における検知石数が増加したとしても、被告は原告等に対し貯木場における検知右数に基き賃金を支払うべき義務はない。その理由については前記(三)乃至(五)に記載のとおりである。従つて原告等の本訴請求は失当として棄却されるべきである。

と述た。立証〈省略〉

理由

一、原告古畑勇等一二名(昭和三六年(ハ)第八号事件原告)がいずれも国有林野事業定期作業員として林野庁長野営林局奈良井営林署に勤務していること、原告中斉等六名が昭和三四年四月以降同年九月迄の間右奈良井営林署白川伐採事業所第一作業班に所属し、白川事業地の第一〇林班第一号、第三号、第五号、第七号各伐区の立木伐採の業務に従事したこと、原告古畑勇等六名が昭和三四年四月以降同年一一月迄の間右奈良井営林署白川伐採事業所戸沢連絡所第一作業班に所属し、戸沢事業地の第五七林班第二、第三、第四、第六、第一三各伐区の立木伐採の業務に従事したことは、昭和三六年(ハ)第八号事件において当事者間に争いがなく、原告古畑勇等一九名(昭和三七年(ハ)第八号事件)が昭和三五年四月以降同年一二月迄の間いずれも国有林野事業定期作業員として林野庁長野営林局奈良井営林署白川伐採事業所戸沢連絡所に勤務し、原告古畑勇等六名がその第一作業班に所属する造材手であり、その余の原告等一三名がその第二作業班に所属する運材手であつたこと、右第二作業班所属の原告等一三名が同年四月一七日より同月三〇日迄の間第五八林班「は」伐区人工林においてカラ松立木の手切り作業に従事し、また右第一作業班所属の原告等六名が同年七月八日より同年九月一二日迄の間右「は」伐区においてカラ松立木の伐木造材に従事したことは、昭和三七年(ハ)第八号事件において当事者間に争いがなく、さらに原告等の立木伐採による賃金については、原告等と奈良井営林署長との間になされた労働協約により所謂出来高払制がとられていたことは、右本件両事件につき当事者間に争いのないところである。

二、原告等は、昭和三六年(ハ)第八号事件につき、昭和三四年四月以降同年一一月迄の間白川事業地および戸沢事業地において原告等が伐採した合計石数は二二、一二五・八石以上であると主張するのに対して、被告は右の期間における右各伐区の原告等の出来高払による伐採石数は合計二〇、九七四・四三石であるとして抗争し、また原告等は、昭和三七年(ハ)第八号事件につき昭和三五年四月以降同年九月迄の間原告等が第五八林班「は」伐区において伐採した造材石数は合計五、二〇九・六六石であつて、伐採現場における検知石数四、八三七・三七石との差額三七二・二九石につき未払賃金があると主張し、被告はこれを抗争するので、先ず右各伐区における伐採石数の点について判断する。

原告古畑勇等六名の前記第一作業班およびその余の原告等一三名の前記第二作業班により昭和三五年四月以降同年九月迄に伐採された第五八林班「は」伐区の木材が、伐採現場において検知され、その結果右第二作業班の出来高石数は一、三六六・九六石、右第一作業班の出来高石数は三、四七〇・四一石、合計四、八三七・三七石であるとされて、原告等において右各出来高に見合うべき賃金の支払いを受けたこと、右原告等が伐採した各木材は伐採現場より架線およびトラツク便にて奈良井貯木場に運搬され、同貯木場において搬入と同時に貯木場検知をなした結果右第五八林班「は」伐区から搬入された伐木造材の総石数が合計五、二〇九・六六石であつたことは、昭和三七年(ハ)第八号事件において当事者間に争いがなく、また原告等が前記白川事業地の第一〇林班および戸沢事業地の第五七林班の各伐区において伐採した各木材がすべて奈良井貯木場に集積されたこと、ならびに昭和三五年度の白川、戸沢各事業地における最終生産(貯木場検知)総数が二六、七七一九三石であるのに、その現場検知総数は二六、七九一・七四石であり、昭和三三年度においては右各事業地の貯木場検知総数が一一、八三〇・五二石であるのに、その現場検知総数は一一、八七六・三八石となつていて、右両者による検知結果では右両年度ともにいずれも貯木場検知石数の方が伐採現場石数よりも減少した数字となつて現れていることは、昭和三六年(ハ)第八号事件において当事者間に争いのないところであつて、右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない乙第一、二号証および証人柳川貢の証言ならびに本件弁論の全趣旨によれば、昭和三四年度において右白川事業地および戸沢事業地において伐採された材の最終生産石数は二二、三二四・六四石であるが、これは奈良井貯木場に集積された貯木場検知石数であつて、この石数のうちには原告等伐木造材手の日給分による伐採石数や前年度未了越の石数等も含まれているので、原告等が右各事業地において原告等主張の昭和三四年四月以降同年一一月迄の間に伐採した石数は、右の貯木場検知石数を基準として算出したとしても、その確たる石数は判別し難いこと、然るところ原告等が右白川、戸沢各事業地および前記第五八林班「は」伐区の各伐採現場において伐採した伐木造材に関しては、後記のようにその各現場において原告等造材手のいずれかがいわゆる「検知手伝」と称して立会の上検知がなされているもので、原告等が立会の上なされたその伐採現場における検知石数は、白川事業地において計七、八一三・九七石、戸沢事業地において計一三、一六〇・四六石、合計二〇、九七四・四三石であり、「は」伐区において計四、八三七・三七石であつたこと、が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば右白川事業地および戸沢事業地においては昭和三四年度のみ貯木場検知石数の方が伐採現場石数よりも検知増となつて現われており、右第五八林班「は」伐区でも昭和三五年度の貯木場検知石数が伐採現場検知石数よりも増加していることが明らかであるが、そうだからといつてその貯木場検知により増加した石数のうちどれ程の数量が原告等によつて伐採されたものであるかどうかを確定することは困難であるというのほかはない。

三、ところで原告等に支払うべき賃金の計算の基礎となる伐採量が、伐採現場において検量されるべきものであることは、本件各事件につきいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四、第五号証に、証人柳川貢、同長島万寿男、同原忠雄同野村修一、同油井勝の各証言を綜合すれば、原告等に対する伐木造材の賃金についての出来高払とは、伐木造材手が現実に営林署から命ぜられた地域の立木を伐採し、その伐採量に予め決められた石当りの単価を乗じて算出した賃金の支払を受ける場合を指すこと、伐木造材手に支払うべき造材賃金は、造伐現地たる伐採現場における検知石数に基いて予め決められた石当りの単価をこれに乗じて計算されているが、この方法は全国の国有林において過去何十年もの間慣行として行われてきているところであつて、原告等はこのことを了知して営林署長との間に各伐区毎に右の石当りの単価を決めた上で、伐採に着手していたものと考えられ、殊に原告等のうち原告古畑勇、同中斉両名は伐木造材についての長年の経験者であつて、本件による立木伐採事業に従事する以前から現場検知の石数により賃金の支払を受けていたものであること、原告等伐木造材手に支払うべき出来高払による賃金は、伐採現場における検知石数に基いてなされるべきことが、原告等の所属する全林野労働組合奈良井分会と奈良井営林署長との間になされた労働協約の内容の一部とされていること、被告等はその労働協約に基き、本件の各伐区において原告等が伐採した伐木造材につき現場検知石数に予め各伐区毎に決められた単価を乗じた金額を賃金として原告等に支払つたこと、従来貯木場における検知石数が伐採現場における検知石数より増加した場合、その増加分の石数につき、前記奈良井営林署から伐木造材手に賃金の追給をした事例はなく、また逆に貯木場の検知石数が伐採現場のそれよりも減少した場合、その減少部分につき右営林署から造材手に対して差額賃金の返還を求めたような事例もなく、従つていずれの場合においても伐木造材手に対し現場検知石数によらずに貯木場検知石数に基いて賃金の支払をなした例は全然なかつたこと、貯木場に運材される伐木の中には伐採現場における検知洩れの分の伐木が混入されていることもあり、また伐採現場における検知の際には各造材手の伐採した材を確認しうるが、貯木場検知の場合においては、各造材手別の造材石数を確認することが困難である上に、前年度分からの繰越材のほか日給払で伐木した材も混入していて、これらの各材を判別することが不可能である実状にあること、伐採現場における検知の目的は右現場で造材手各個人が伐採した石数を確認して造材手に対する賃金支払の計算の基礎とするためであり、(これを貯木場検知によるものとすれば、貯木場迄の運材に約二ケ月の期間を要するので、それだけ造材手に対する賃金の支払が遅れるようなことにもなるので、貯木場検知は造材手には適用していない。)貯木場における検知の目的は木材業者等への売払、積込手やトラツクの運転手に対する賃金支払の計算の基礎とするために行つているものであつて、その検知目的につき両者間に相異があること、伐採現場における検知にあつては、事業所の事務員たる計測手と野帳マン各一名のほか、伐木造材手のうち二名が「検知手伝」という名目で検知の手伝を兼ねて立会い、計測手がはさみ尺(計測器)を使用して造材の最小径を計測し、その都度これを読み上げると、野帳マンがこれを復誦して野帳に記載するという方式がとられており、現場検知に立会う伐木造材手二名は各伐木造材手等が伐採した材を計測手に指示して現場検知に協力し、計測手による計測を終えた伐木材については、右の造材手のうちの一名によつて刻印が押され、他の一名によつて切判がなされているもので現場検知をした材の数量についてはその材の検証の都度計測手によつてその数字が読み上げられているところからして、現場検知に立会う右造材手二名はこれを当然聞くことができるし、また右現場検知の際原告等造材手において計測手の検知方法等に不服があればその旨計測手に申し出ることができることとされており、立会いの原告等造材手から不服の申立があつた場合には再度検知をし直しているほか、検知洩れがあるとして検知の申し出があつた場合にも、計測手においてこれが検知をしており、造材手には立会権を行使しうる状況下に現場検知がなされていたこと、右検知の際野帳マンが記載した野帳は各事業所の事務所に持ち帰られ、材積表によつて計算された材積を野帳の材積欄に記入し集計した上、その材積石数を毎月毎に算出しており、これが原告等造材手の賃金計算の基礎となつていること、が認められる。原告等の提出援用にかかる量拠によるも未だこの認定を覆すに足りないし、他に右の認定を左右するような証拠は存在しない。

そうすると、原告等伐木造材手の立木伐採業務に対して受取るべき賃金については、いわゆる出来高払制として、伐採現場における検知石数に基き、被告より支払われるべきことが原告等と前記奈良井営林署長との間の労働協約の内容の一部となつており、貯木場における検知石数の増減如何に拘らず、過去において伐採現場において検知された石数に基いて支払われているという慣例に徴するときは、特段の事情のない限り、原告等に対しては伐採現場における検知石数に基き、これに予め当事者間において決められた単価を乗じた金額を賃金として原告等に支払えば足り、貯木場における検知石数に基いてその賃金を支払うべき義務はないものというべきである。

四、然るところ原告等は、伐採現場における検量に誤りがあれば、奈良井営林署長はこれを改めるべきであるのに、右各現場において検量をなすべきものに命じて真実の量目より過少の量目を検量せしめたもので、右各伐採現場検知に故意若しくは過失があり、殆どの伐区において不正検量が意識的に実施された旨主張するので、この点をみるに、当事者間に争いのない事実欄記載の事実および前記認定の事実と原告中斉長作、同古畑勇(第一、二回)同巾崎助治、同古畑芳雄、同畔出健次各本人尋問の結果に徴すれば、計測手による各伐木の計測の方法結果等について、原告等の要望に反するものがあつたことはこれを窺うことができるし、また貯木場検知の方が伐採現場検知の場合よりもその石数が減ずるのが、通常であるといえるのに、前記白川、戸沢各事業地における昭和三四年度の伐採現場検知石数が同年度の貯木場検知石数より検知減となつており、更に第五八林班「は」伐区における昭和三五年度の伐採現場検知石数も同年度の貯木場検知石数よりも減じた数量となつて現われているところからして、本件の場合においてはいずれも通常の年度の場合とは逆の生産実績となつて現われてきていることが窺われるが、右奈良井営林署長において本件各現場において検知をなすべき計測手等に命じて真実の量目よりも過少の量目を検量せしめたもので、本件につき伐採現場検知に故意若くは過失があるとの点は、原告中斉長作等各本の供述によつてもこれを肯認し難く、また殆どの伐区において不正の検量が意識的に実施されたとの点についても、これを認めるに足る証拠はなく、かえつて証人柳川貢、同原忠雄、同油井勝の各証言ならびに成立に争いのない乙第四、五号証の各記載によれば、その然らざることが認められるので、原告等の右主張は採用できない。

五、ところで原告等の作業が共同作業形態を採用しており、原告等各自別の伐採量は明らかでなく、もともと共同作業として賃金が一体として算定されていることは、原告等所論のとおりであり、原告等はこの点を根拠として、原告等の被告に対する賃金債権を不可分債権であると主張するが、本件賃金の請求が不可分債権に属するものであるとしても、被告は前記認定のとおり、原告等に対し伐採現場における検知石数に基き、これに予め決められた単価を乗じて得た金額を出来高払制による賃金として支払う義務を有すべきところ、本件弁論の全趣旨に徴すれば、被告は原告等に対し右の伐採現場における検知石数に見合うべき金額をその賃金として支払つていることが認められるのであるから、従つて被告の原告等に対してなした右金員の支払は正当な賃金としての支払であるものといわなければならないので、被告には未払賃金はないものというべく、被告は原告等に対し貯木場検知石数に基いて本件賃金の差額を支払うべき義務はないものと解するのが相当である。

六、次に原告等は、本件においては、原告等の伐採区域より貯木場へ搬入した木材については、原告等以外の者が伐採した木材が混入された形跡がなく、貯木場検知の方が伐採現場検知よりも正確性の信頼度が高く、更に貯木場においては一般的に目減りするという山林業における経験則があることより、原告等の真実の伐採石数は貯木場検知石数よりも多かつたと考えるのは経験則上当然であると主張するので、右の主張について考えるに、なるほど貯木場検知の方が伐採現場検知よりも、立地条件からくるその検知の位置差や計測手の計測の難易等により通常の場合はその正確性の信頼度が高いということができることならびに運材作業の過程における損耗のため貯木場では一般的に目減りがあることは、原告等所論のとおりであるが、両者の検知石数に或る程度の増減が生ずることのあるのは、当然予想されるところ止むを得ないところであるというべく、たとえ一般的にみて原告等のなした真実の伐採石数が貯木場における検知石数よりも多かつたと考えられるとしても、前記のように原告等伐木造材手に支払うべき出来高払に基く賃金は、貯木場における検知石数の増減如何に拘らず、伐採現場において検知された石数に基いて支払われるべきことに原告等と奈良井営林署長間に約定がなされているものと解されるのであるから、原告等が貯木場における検知石数に基き出来高払による賃金の支払を求めた場合であつても、被告は伐採現場における検知に不正が行われていない限り、その賃金の支払に応ずる義務はなく、原告等が主張するように右の検知が不正に行われたことの認め得ない本件にあつては、右労働協約に基く約定によるべく、原告等主張のような経験則に遵う必要はないものと考えるので、右経験則に基く原告等の主張も、これを容認することはできない。

七、すると原告等および被告が主張する爾余の点につき判断するまでもなく、原告等の主張はすべて理由がないものというべきであるから、原告等の本件各請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳原嘉藤)

別表一、二〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例